三月

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暁の庭に喇叭水仙吹きはじめ

薬石効なし打つ手はありと四月馬鹿

ひょっとこの顔して風船ふくらます

三十余亡夫の曲がりし角の梅

蕗の薹採り進みてや他家の領

婆々友とおしゃべりおれば初蝶来

「春宵一刻値千金」終わりの旅の卒寿吾

淑女にして手放し大笑いマスクして

香保里

 

石手寺に餅撒く節分懐かしむ

美沙

二月

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大風呂敷の癖のありけり風の春

慣習を少しはずれて寒送る

あさぼらけ四方に喇叭吹く水仙

物見高い狸が庭に春の宿(奥道後)

向こふ山の幽霊鉄塔や初霞

鱈にケチャップ苦労は隠居にもありて

日がな一日そこにありけり春の雲

墓山より見る甍の波の春気かな

「やぶ鶯」と 渾名で老母喜ばす

春一番屋根に吹かるる男ゐる

鶯摺餌予備のはこべら瓶にあり

あやふやな老いに死は一定と春の夢

香保里

 

暗やみにあたり憚り鬼は外

食べ乍ら豆を撒いてて幾つ目ぞ

節分豆一升まこと昭和はなつかしき

美沙

 

明日は咲くシクラメン鉢窓に置く

待ちて咲き三日の落花白椿

瀬戸の海光浴び断崖の梅数本

ひでみ

 

Patriots 二・二六に父想う

啓蟄や取り出して読む三国志

青斑

一月

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水涸れて農池に青き冬の草

ふて寝してもて余したる夜長かな

一の門過ぎれば札所の梅の坂

のこのこと烏のありく寒日向

初詣寡婦も混じりて女坂

初句会横文字入りの句が処々に

寒四郎疾風の如鳥一点

ヘラジカの抱き枕だき寒九かな

初雪ちらちら一固りの黒い雲

一枚の雪空の端青い空

亡夫は生涯「手套は白」と矜持なる

日々是新聞憂国婆々の寒の内

壁に並ぶ「うどん」のメニューや寒の内

香保里

 

正月も母の忙しく明け暮るる

こんねんも独りで搗くや餅搗機

次々とシクラメン咲く窓辺かな

ひでみ

 

初夢や吾は笑いて師の家に

美沙

 

令和パラ人と補助具の新記録

初夢や熱力単位がまた取れぬ

A hard day's night  終えて拝すや初日の出

青斑

十二月

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落葉松散り積もりたる月明

落葉松の囲む屯田兵の父祖の家

サイロより落葉松林の續きけり

落葉松に仔牛が角を磨きいる

托鉢に紙幣が一枚暮れの街

散る紅葉夕配膳の音のして

早暁の鯖雲こちら泳ぎ来る

蹲に侘助立たす庭師かな

初詣つれは孫なり女坂

新春や齢の半分は神の意志

勝手口へ米屋の通る竜の玉

煩悩も一センチ程年迎ふ

落葉松散るささやく如く昼も夜も

香保里

 

幾多なる英霊生みし真珠湾

薬缶持ち車に走る寒の朝

炬燵入り思い出したる化学式

青斑

十一月

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神の留守ピンと撥ねたり鹿威し

今着きし新車に塩盛る秋の昼

神の留守内緒の酒蔵栓を抜く

菊月や恋の恨みを玉三郎

石橋の囃子の張れる神無月

勧進帳華にて終わる秋の夜

集合の雀ら一斉発つ夕べ

鵯のぶつかりざまに避けてゆく

競ふもの一つも無くて小春かな

赤トンボねえやは嫁にゆくと告げ

香保里

 

頼み事ありては仰ぐ寒昴

冬到る朝のごみ出し背を丸め

立冬にして昼の青空上着脱ぐ

美沙

 

神輿担ぐつぶれた声で合唱団

秋祭り右に左にモーテコイ

子育ての鶫の親も疲れ気味

青斑

十月

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天窓は雲のスクリーン秋の昏

錦秋の夕凪空のまばたく間

爽やかに詰襟制服男子(おのこ)なり

早朝の澄む秋を吸ふ日課なり

菊月や背高野菊誇らしき

山法師白雲の如暮れ残る

山法師果実に大粒種一つ

早暁の百舌は狩猟の早立す

かまきりの鎌の重たき錆いたる

香保里

 

台風と豪雨にすくむ温暖化

数本の純白に立つ彼岸花

崖の上海に向かいて野菊かな

美沙

 

八十路にして心待たるる紅葉狩

ひでみ

 

まるまると焼き加減よき初秋刀魚

舌舐めずりして待望の秋鮭なりき

初秋の書店の書架の匂いかな

焼酎割湯に替えて身のゆらりゆらり

青斑

八、九月

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祭花火一万発宇宙軍来と幼言う

触れる掌にはじけて応ふる鳳仙花

教へ子の先に逝きけり孟盆会

やわらかき風の一日九月かな

十六夜の月雲のベールを脱ぎ捨てて

中秋の一人は佳かり三連休

入道雲見事砕けて鰯雲

高く咲くコスモス風が好きで咲く

門火焚く吾家血脈すこやかに

八月をドローンで撮りて送りけり

香保里

 

コーヒーの香り立ちけり今朝の秋

秋暑しあついあついと暮れにけり

美沙

 

秋の駒ぽくりぽてり歩きいる

黒ん坊大会も消滅淋しき梅津寺

旅にあり垂泣知覧の赤とんぼ

盆の里携帯電話(でんわ) で戻るや宮仕え

教え子の母に横目や水泳教師

非道なる原爆投下壁に人の相

青斑